「女性の生き方に学ぶ―19世紀イギリスと女性」
2012.01.22 Sunday
名古屋市男女平等参画推進センター 後期講座 「女性の生き方に学ぶー19世紀イギリスと女性」 講座概要はこちら 第6回:2012年1月22日(日) 13:00〜15:00 講師:渡辺敬子さん(名古屋女性学グループ) 19世紀を生きた6人のイギリス人女性の人生をひもときながら、当時のイギリスがどんな社会であったかを学び、同時に女性の生き方の多様性を考える講座です。 第6回目は、後に夫となったJ・S・ミルと共に、男女の平等を論じた著作活動を行った「離婚したかった女性、ハリエット・テイラー・ミル」の生き方とその主張のお話でした。19世紀のイギリス社会において、「結婚」が中・上流階級女性にどのような不利益を与えていたのか、講師の問いかけで参加者が一緒に考えました。身近なテーマだけに、会場から質問、意見が続出し、活気ある最終回となりました。 講座内容 スライドに沿って、次のような項目で講義が進行しました。 ハリエット・テイラー・ミルを知っていますか、という問いかけから講義が始まりました。歴史に埋もれた女性たちを取り上げたのが、講座テキストの『19世紀女性たちの挑戦』です、との説明の後、本題に入りました。19世紀前半のイギリスで、ハリエットが果敢に女性の「離婚権」や「職業に就く権利」「男女平等」を訴えたのはなぜかを「結婚」と「離婚」をキーワードにして講義が進みました。 まず、結婚願望が描かれているジェーン・オースティンの小説に注目しました。当時女性が結婚を奨励されていたのは、女性が自活できない社会制度だったからです。女性には財産権がなく、父親や夫が亡くなると一家の財産はすべて息子が相続し、娘だけの家族の場合は、父親・夫の親族男性が相続することが法律で定められていました。一見はなやかなイメージがあるヴィクトリア女性たちですが、住んでいる家から追い出され路頭に迷う可能性もあったのです。講師のこの説明に、参加者は唖然とした表情でした。 こうした法律の不当性(法律が女性を守ってくれないこと)を論理的に批判したのが、ハリエット・テイラーです。彼女は同じリベラルな考えを持つJ・S・ミルと協力して男女平等論を発表しました。女性は男性に従うこと(隷従)が「自然」と考えられていた時代に、それを「不自然」であると考え、「女性の隷属が『自然』というのは『現状肯定の理由づけであり、支配者の自己正当化』に他ならないと反論した」(テキスト62頁)のです。また、「女性が『産む性』であることが女性を政治的権利や職業から排除する理由にはならない」(同64頁)、「女性を解放するのは女性自身である」(同65頁)とも述べています。テキストでこれらの部分を講師が音読した時、何人もの方がうなずいておられました。現代にも通用する論理的な主張でした。 当時の社会通念に反対する男女平等の考えを発表したハリエットとミルは、人々から痛烈に批判され、二人の個人的関係も非難されました。他にも既婚女性の不当な扱われ方について新聞に抗議記事を投稿したり、著作活動で既婚女性財産法等の改正運動を進めた例として、キャロライン・ノートンやバーバラ・レイ・スミスも紹介されました。 講師の渡辺さんの柔らかい語り口や問いかけに励まされて、参加者の方々から疑問や感想、意見が次々に出されました。ハリエットが素晴らしい女性なのか、夫とミルを天秤にかけたずうずうしい女性なのかという点では討論にもなりました。ヴィクトリア女王は女性の問題をどう考えていたのだろうという発言もありました。「結婚」と「離婚」の問題に関して、「不自由な時代に頑張ってくれた女性たち」の存在に気づいた講義だったと思います。講師の渡辺さんは、ハリエットの「女性を解放するのは女性自身である」という言葉で講義をまとめられました。 6回講座の締めくくりに、講師側代表として名古屋女性学グループを主宰する青山静子先生から、同グループの設立の経緯、研究活動の歴史と、英語で日本人女性のことを書いて発信するという活動の趣旨についての説明がありました。青山先生ご自身の留学体験なども話してくださり、みなさん、熱心に聞いておられました。 最後に参加者された方々の講座に対する感想を挙げておきます。最多は、「映画を見る時、これからはその背景も考えるようになると思う」でした。ほかには、「断片的知識がつながった」「テキストを見た時はむずかしくてどうしようかと思った」「19世紀にこんなにも批判的な発信をしていることに驚いた」「現代の女性たちの地位が歴史に埋もれていた女性たちに負うところが大きいことを発見」「19世紀女性のエネルギーと、それを調べた講師たちのエネルギーに感心」「黙っていてはだめ」「批判的に物事を見よう」「私の夫はヴィクトリアン時代の生き残りかも」「イギリス以外の国の話も聞きたい」などがありました。 この講座の出席率は最後まで高かったと事務局からお聞きしました。講師をさせていただいた私たちには嬉しいことでした。現代女性にとっても「古くて新しい問題」を参加者のみなさんと一緒に、ヴィクトリア時代女性の視点で見直すことができた貴重な機会だったと思います。講座をお世話くださった参画プラネットのみなさん、参加者のみなさん、ありがとうございました。 多田倫子(名古屋女性学グループ) |